一夜の物語
突然のことだった。

唇に温かい何かが触れる。


最初は何かよくわからなかった。


そしてゆっくりと今自分が何をされてるのか理解した。


鬼が自分の唇を離した。


「死ぬ気満々の奴を喰い殺すほどつまらないものは無いんだよ。」


……。


は?


え?


「いや、それとキスと何の関係があるの?」


「無いなぁ。したかったから。」


「っ!」


次の瞬間、私は体を沈めて鬼の拘束から逃れた。


そして鬼の後ろにまわると同時にこれでも自慢の長い足で鬼の首もとを回し蹴り。


自分でも驚くほど一瞬のことだった。


けど……たしかに当てたはずなのに……。


手応えがまるでない。


「なんだかんだ言って、ちゃんと防衛の術は備わってるんじゃん。」


鬼の後ろにまわったはずの私の後ろに


鬼はいた。
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