一夜の物語
なんで?


「殺していいのよ?喰っていいのよ?私は家に帰れないっ!今更……。」


「何度も言わせるな。死にたがるやつほど喰えないやつはいない。」


「っつ!」


「なぁなぁ?そんなことより、俺と遊んでよ。」


ナンパ?
鬼には悪いけど素直にそう思った。


「暫くこの山には誰もこないから暇で暇で。」


と、鬼は背伸びをする。


そりゃ、行ったらあんたに喰われるんだもん。

まともなら来る筈がない。


「私のとこの子供は小さいときから鬼の教養をされている。 それだけ貴方を恐れてる。」


「ふん。人間も賢くなったものだ。つまらん。」


鬼は拗ねたように頬を膨らませた。


不覚にも可愛いと……。


いやいやっ!
あれは鬼っ。

殺人鬼っっ!


「おい、娘?」


「なっ何よ?」


つっけんどんな口調になってしまった。

「名前……。教えろ。呼びにくい。」


「葉月……だけど。」


「葉月……。葉月か……。葉月。」


何度も言わないでよ。

照れるじゃない。

鬼は二ッと笑った。

「良い名だ。葉月。」


私はかぁっと熱くなった。

嫌だ。
何熱くなってんの?

「あっあんたの名前も教えなさいよ。」

呼びにくいという理由もあったが、こっちだけ教えるのも何か悔しい。
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