一夜の物語
私はチラッと夜鬼をみる。

夜鬼はなにくわぬ顔で月を見ていた。

なんとも思ってないよ……みたいな顔。

でもそっちの方が話しやすい。

私は続けた。

「私……。昔は幸せだったの。

お父さんがいて、お母さんがいて、妹がいて、普通に暮らしていた。

凄く、凄く楽しかった。」

思い出すあのころの自分。

馬鹿みたいに笑っていた。

だって、本当に楽しかったから……。

「けど、幸せは長く続かない。
ある日家に……、強盗が入ったの。
皆、皆殺されちゃった。
私はその時、友達の家に泊まってて、無事だったけど……。
帰ったら家が燃えていた。」

煌々と燃える家。

私はなんにもできない。

火は私の大切なものを奪っていった。
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