一夜の物語
「いただきます。」

ザクッ。


何も痛くない。


全ての感覚がもう無かったから。


「葉月……。」


ああ……。
あの人が私を呼ぶ。

「葉月……?」


残念だけど……答えてあげられないよ。

何かが、唇に押しあてられた。


愛しい、夜鬼の唇。

最後となるだろうそのキスは


今までよりのも深く、甘く。

あ、でもちょっとだけ血の味がした。


「葉月。」


離れた真っ赤な自分の唇を舐め、夜鬼は耳元に顔を寄せた。


「ア……テル。」


何?
聞こえないよ。


薄れる意識。
確実に消えゆく私の命。


そんな中でも夢をみていいですか?


貴方がさっき言った言葉。


よく聞こえなかったけど……。


自惚れかもしれないけど……。


こう言っていたと信じていいですか?













   愛してる



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