カシスオレンジと波の音
案内してくれたのは、若い男の子。
きっと同年代だと思う。
「ちょっと狭いですけど我慢してくださいね~!食堂も自由に使ってください!夜も、騒いじゃってOKなんで」
爽やかな笑顔の男の子は、日に焼けて真っ黒だった。
「ねぇ、あのオヤジの息子?」
千佳は人見知りしないタイプだった。
その男の子は、ケラケラと笑い出した。
「まっさか~!夏休みだけここでバイトしてるんです!」
彼の名前は、大介。
ここでバイトを始めて1週間の大学生。
大学名を聞き、私達3人の目はハートになった。
同じ地元で、その地域では誰でも知っている頭の良い有名大学だった。
「あの人、怖そうに見えるけど全然怖くないですよ」
大介君が言う“あの人”とはさっきのあのおじさん。
「しかも、ああ見えて、まだ20代なんで、おじさんなんて呼ばないであげてくださいよ~!」
「うっそ!!どう見てもオヤジじゃん!」
千佳は笑いを堪えながらそう言った。
「どうでもいいし」
明日香は荷物を鞄から出し始めた。
私は何も言わなかった。
さっきの写真のせいかな。
悪い人にも思えないっていうか、ちょっと不器用なだけで実は良い人なんじゃないかって思った。