カシスオレンジと波の音
8畳ほどの部屋はあっという間に涼しくなった。
「大介って大学の友達と一緒にバイトに来たって言ってたよね。その友達が楽しみだなぁ。もう少し、大人っぽい人がいいな~」
千佳は、実は元彼のことをまだ引きずっていて、他に男を見つけることで気を紛らせようとしているように見えた。
お揃いで買ったボーダー柄のハーフパンツに着替えて、庭へと繰り出した。
そこで私が見たのは……
さっきのおじさんが、火をおこしている後姿だった。
Tシャツの背中の部分が汗でびっしょりになっていて、頭に巻いたタオルはすすで汚れていた。
「またいるよ。あのオヤジ……」
千佳は相当嫌いなんだな、あの人のこと。
「見て見て!!!めちゃめちゃかっこよくない??」
「うわ!!!さっき、写真に写ってた人じゃない?」
明日香と千佳が指差していた方向に立っていたのは、モデル風のイケメン。
180センチくらいの身長に、渋いアッシュ系の髪の色。
隣に立っている大介がかすんでしまうくらいに目立つ人。
「あの人もバイトかな!?やばいって!!あれは惚れちゃうよぉ」
「うんうん。絶対友達になろうね」
普通なら私もその会話に参加するはずなんだけど。
だって、かっこいい男の子には目がないし、何より今は夏の思い出を作る為に、恋の相手を探しているんだもん。
どうしてだろう。
私はそのイケメン君よりも、汗だくになっているおじさんに目が行ってしまう。