カシスオレンジと波の音
「おじさんって言ったな?」
肉を飲み込んだおじさんは、また肉をひっくり返した。
「だっておじさんじゃん。でも20代なんでしょ?」
「まだ27だし。ここに来てから35歳くらいに見られるけどな」
また笑った。
笑っていればいいのに。
すごく優しい顔するのに。
「うっそだーーー!絶対年齢ごまかしてるでしょ?」
「嘘じゃねぇよ。ばか!!」
私のお皿にまた肉を乗せた。
「俺のズボンの後ろのポケットに財布入ってるからちょっと取って。免許証あるから証明してやる」
この人、心を開くのに時間がかかる人なんだ。
実はとても面白くて優しい人なのに、照れくさくて、それを隠してしまうんだ。
私はおじさんのポケットから財布を出し、言われるままに、免許証を出した。