カシスオレンジと波の音
後片付けをしている佐倉さんは、突っ立ってこっちを見ていた大介の頭をコツンと叩いて、たかちゃんのTシャツを引っ張った。
2人は、バーベキューに使った大きな網を食堂へ運び始めた。
「普通、俺にも怒るだろ?佐倉さんは、ほんとに理解あるんだよ。俺達が女の子を口説いてるときは、絶対に見て見ぬフリしてくれるんだ。自分も10代の頃は同じだったからって。あ、今は口説いてるわけじゃないんだよ!!」
慌てたようにそう言った俊吾は、じゃあまたあとでと言って、仕事に戻った。
俊吾の背中をじっと見つめる千佳。
頬に手を当てた明日香。
「そんなにかっこいい?」
私は冷めた声を出してしまった。
「沙穂はドキドキしなかったの?」
千佳は、私の肩を揺すりながら言った。
ドキドキ?
今?
確かにかっこいいなって思ったよ。
顔小さいな、とか……
爽やかだなとかそんなことは思ったんだけど、ドキドキはしなかった。