カシスオレンジと波の音
「沙穂――!!絶品グルメの旅にしない?」
「やだやだ!恋の予感ゼロじゃん!今年の夏は絶対に恋するんだから!!」
「じゃあこれは?海とかいいんじゃない?」
駅前の古びた旅行会社のカウンター。
貸切状態の店の中で大声で騒ぐ私達に、店員さんは困り顔。
高校を卒業して専門学校へ進み、そこそこ楽しい生活だけど何か物足りなさを感じながら日々を過ごしていた。
高校では仲良し3人組だった私達。
私、沙穂。
そして、親友の明日香と千佳。
別々の進路に進んだ私達3人は、週に3度はこの駅に集合していた。
都会の人から見れば、寂しい駅だと思う。
でも、私達にとって、この場所は何でもある大好きな場所。
ドーナツ屋さんに喫茶店、本屋、雑貨屋、洋服屋、CDショップ。
ここに来れば、誰かに会える。