カシスオレンジと波の音
大人の男
灯りがなくて、どこがトイレなのかよくわからない。
どこに電気があるんだろう。
きょろきょろしても何も見えず、手探りでトイレらしき場所を見つけた。
「エッチ!!そっちは、男子便所なんだけど」
優しい声。
大好きな声。
振り向くと、暗闇の中に佐倉さんが立っていた。
顔は見えないけど、絶対に佐倉さんだってわかる。
だって、好きなんだもん。
好きな人のことはよくわかる。
「来てくれたの?」
「いや。俺もトイレに行きたかっただけ」
照れ屋な佐倉さんらしい優しさ。
女子トイレの電気をつけてくれた佐倉さんは、男子トイレに入って行った。
佐倉さんに置いて帰られないように、急いで用を済まし、トイレを出た。