カシスオレンジと波の音
足音が背後から近付いてくるような気がする。
緊張で、足が動かない。
「お前、俺に気があるのか?」
「何それ」
「だって、今日ずっと俺にくっついてただろ?ひと夏の思い出を作る相手としては俺はちょうどいいってか?」
すぐ後ろで声が聞こえる。
私は、無意識にたくさんの写真の中から佐倉さんを探してしまっていた。
「酒も飲めないガキが、大人をからかうなよ」
私は少し振り向いて、佐倉さんの手元を見た。
佐倉さんは、手にグラスをひとつ持っていた。
すぐ近くに顔があることに緊張して、また背中を向けた。
泣いてしまいそうだった。
ガキなんだ、私。
やっぱりガキだよね。
からかってなんていないのに。
佐倉さんはそういう言い方をして、私との距離を広げようとしているんだ。
佐倉さんみたいな大人の男性から見れば、私なんてどこにでもいるただのガキ。