カシスオレンジと波の音
「待てって!!」
遠くから呼ぶ声が聞こえる。
佐倉さんが追いかけてきてくれた。
でも、それは責任感から。
ペンションに泊まるお客さんに何かあっては困るから。
全速力で走ったのに、すぐに追いつかれてしまった。
「おい!!どうしたんだよ。何、泣いてんだ?」
肩を引っ張られて、佐倉さんの方に体を向けられた。
流れる涙をじっと見つめる佐倉さん。
「ごめん」
ザザザザーー
波の音にかき消される私の泣き声。
「ばか!!軽い気持ちでキスなんてしないで!!」
ぐっと引き寄せられた体は、もう佐倉さんの腕の中。
「気のない相手にキスなんかするかよ……さっきのは嘘だよ、ごめん」
首を少し傾けた佐倉さんは、私の涙を優しくふき取ってくれた。