カシスオレンジと波の音
「ごめん。沙穂、ごめん」
「うぐ……うぐ……ひっく」
泣きすぎてうまく話せない私を見て、佐倉さんは優しく笑った。
聞き逃しそうになったけど、私の名前を呼んでくれた。
「ほんとにガキだな。もう一度、キスしていい?」
コクンと頷いた。
右手で私の前髪を上げて、その手で頭を優しく撫でてくれた。
そして、もう一度キスをしてくれた。
今度のキスは悲しくない。
大人のキス。
カシスオレンジの味。
大人の恋。
忘れられないキス。
もう戻れない。
もう佐倉さん以上に好きになる人には出会えない。