カシスオレンジと波の音
「お菓子ちょうだい!」
「千佳のチョコ溶けてるーーー!」
旅行当日。
遠足のバスの中のようなはしゃぎよう。
1番後ろの長い椅子を3人で占領して、バスガイドの話なんか聞かずに盛り上がる。
「沙穂~!厚史とはどうなの?」
千佳は、私の携帯を奪って、メールを盗み見る。
「メールきてんじゃん!旅行楽しんで来て、だって~!!」
「沙穂、厚史君でいいんじゃない?付き合えば?」
明日香までそんなことを言う。
千佳の元彼の友達だった厚史。
千佳に紹介されて、何度か遊んだことがある。
電話は3日に1日ペースで、メールは毎日。
周りの友達は、もう彼氏同然だって言うんだけど。
イマイチ盛り上がってないんだよね。
私自身が……
鼻にピアス、突っ立てた髪、いつもオレンジ色のジャージのズボンからパンツが見えていて。
確かにオシャレだし、顔は彫が深くて男前だし、私に好意を持ってくれている。
申し分ない相手だとは思う。
「何か違うって言うか…… ときめきがないんだよね」
私がそう言うと、明日香と千佳に贅沢者だって言われちゃった。