secret WISH
チャロはどこか遠くの方を眺めながら、呟いた。
ちょっと瞼を重たそうにしているのは
眠たいからではなくて、悲しいからで。
『まっているよ、またあえるのを。だから、おとうさんとおかあさんのこと、まつの』
最後は笑ってそう言うと、俺の手を引っ張った。
ゴーンと鐘の音がしたと思ったら、チャロは急に立ち上がった。
『よし!ぶとうかいじょうにいこ!!』
『おわっ』
俺の手を引っ張ったまま、ぴょんっとベッドを飛び降りる。
その顔は楽しそうだけど、反面寂しそうで。
‥そうか、今日の舞踏会が終わったら
俺の家に来る準備して、明日には此処を出るんだ。
‘ロメオとジュリエット’の本を片手に部屋を出る。
舞踏会場の方へ迷うことなく進む足だが、
俺の片手には本。
このまま会場に行くわけにはいかない。
『なぁ、この本かたづけて行きたいんだけど』
『あ、そうだった』
来た道を振り返ったその時、何かが聞こえた。
ピシッ
ピシピシ‥
『?』
何だ?
何かが罅割れる音?
俺はチャロの足の動きを止めさせた。
何かの音がする。
何かが割れる音がする。
暫くすると、人の声が聞こえてきた。
高い声。
それは、悲鳴をあげる声。
『‥セレス、ここあぶない』
『え?』
『コッチッ!!』
ぐいっと腕を引かれた次の瞬間
俺たちがいた場所の床が抜けて1階へ落ちた。
そこを眺めていた俺に構わず
チャロは俺の手を引いて走り出す。
『どうなってんだ!?』
『わかんないっ、にげなきゃ!』