secret WISH
深夜は暗闇に囲まれていた教会。
昼間の今見れば、屋根の上にある十字架は白く光って見える。
‥本当だ。
教会内に入れば、真っ白な床に壁に天井。
ステンドグラスは太陽を反射させて
眩しい位にキラキラと輝いている。
真っ赤な血は、一滴も存在しなかった。
昨日の出来事は、夢だったのだろうか‥。
そう思うくらいに。
「こんにちは、セレス」
「牧師さん‥」
聖書を抱えて、首からロザリオを下げた牧師が微笑む。
何か用かな?と。
‥念の為に、確認していた方がいいよな。
「昨日、此処の鍵‥」
「ああ、私とした事が昨日鍵を掛け忘れていたみたいでね。朝方来たら、治安署の隊が来ていたから吃驚したよ」
困った様に笑う牧師は、ふぅと息を吐いた。
キラリと光を反射したロザリオに、俺はステンドグラスを見上げた。
そこには綺麗な色に光るガラスだけで、血なんて見当たらない。
せめてあるとすれば、血の様に真っ赤なステンドグラス。
じゃぁ、鍵が開いていたのは本当なんだな。
キョロキョロと床に視線を張り巡らせてみる。
何か、落ちていないかと。
けれども見つかるものは何もなくて
気付けば日が傾いていた。
‥やっぱり、夢だったのだろうか。
あの子に会った事も。
あんな賭けしたのも。
なら俺は、1ヶ月後に死ぬ事なんてない。
けど、脳裏に存在するあの“山”。
もしもあれが夢だとしても、
初めてだった。
あんなに沢山の人の死体をいっぺんに見たのは。
初めてだった。
あんな、残酷な人の死体をいっぺんに見たのは。
「‥っ」
どんなに消そうとしても、消えない。
ずっと、ずっと。
起きた時からじゃない。
寝ている時もどこかで意識していた。
‥どうしてあんな事が出来るのだろう。
平気な顔して、笑って‥
俺もあんな風に殺されるのだろうか。
そう思うと、酷い絶望感が俺を満たした。
死への恐怖とは、ドルガーと戦っている最中に
いつもいつも感じている筈だ。
でも、違う。
それとは別の、計り知れない恐怖は‥
自分が死ななければ、きっと消えない。