secret WISH
城を出てから6日目。
雨のせいで道が塞がってたり何たりで
山を降りるのに時間が掛ってしまった。
袋の中の食料はもう残っていない。
今日中には町に行きたいところだけど
チャロも俺も足が限界だった。
この山を越える前に麓で見た、あの花。
真っ白い花弁を付けた、甘い匂いの花。
それがこっちの麓にも一面に咲いていた。
その中に腰を降ろして、俺たちは空を見上げていた。
山が邪魔して城が見えないけど、それでいい。
じゃないと、また余計な事を思い出してしまうから。
『いいにおいするね、あまいにおい』
『ああ』
こうやって花に囲まれて、香りを嗅いで。
視界には白い花弁がチラついて。
なんか、花になった気分だ‥なーんて。
『わたし、このにおいすき』
そうやって背伸びをするように
空に伸ばされた手は、傷があった。
何となく自分も同じ様に手を上げると
俺の手にも傷があった。
‥きっと、岩が道を塞いでいたから
よじ登った時に軽く切れたりしたんだろう。
イガイガだったかんな。
『あっ、セレス!!』
『‥ん?』
見て、という様にチャロが指をさす。
その方を見ると、お爺さんが馬車を引いていた。
辺りをきょろきょろと見渡しながら。
そして俺たちと視線が合う。
6日ぶりに見た、俺たち以外の人。
『‥君たち、お城から来たのかい?』
『‥は、はい』
そう言うと、お爺さんは馬から降りて俺たちの所へ来た。
俺はチャロを自分の後ろへやった。
『そんな、警戒しないでくれ』
『‥おじい、ちゃん?』
チャロは俺の影から、お爺さんを覗いて言った。
“おじいちゃん”って、チャロの?
俺の手を取って、お爺さんは思う詰めた様な顔をした。
そして、俺の頭を撫でた。
‥あ、父さんの手と、感覚が似ている。
『そうじゃ、ワシはチャロのお爺ちゃん。ルベの、父親じゃよ』
おいで、とチャロのと俺の手を引いて
お爺さんは俺たちを馬車に乗せた。
どこへ行くのかと訊くと、ワシの家だと笑った。