secret WISH



とある一室。
ぱちぱちと木の弾ける音。
揺れる赤い色は、触っても火傷はしそうにない様に感じた。
雨で濡れてべたりと張り付いていた服を何とか脱いで
お風呂に入れさせて貰って、着替えを貰って。
‥チャロの長い髪は洗うの大変だ。

『はい、どうぞ』

渡された白いマグカップに、ほかほかのミルク。
香る甘い香りは、たぶん蜂蜜の匂いだ。
食欲はあるかな?と言いながら、お爺さんはコーヒーを飲んだ。

‥何が“家”だよ。
此処はこの町の治安署じゃん。
俺も何度か此処に来た事あるけど、ものすっげぇ広くてデカイ。
ここが、“家”って‥‥すげぇお爺さんだ。

『なんで馬車で山のふもとに?』

『みんな騒いどっての、“隣山の城が崩れた”と』

『‥‥』

『やから、もし生きている人がいるなら最初に通るのはこの町。そういう人がお金とか持っとるあまり思えんから、助けてやろうと思っての。毎日あの辺をブラブラしとった』

そこにチャロがいたのは、驚いたわ。



‥じゃあ偶然か、俺たちがこの人に会ったのは。
お風呂に入れてくれたし、着替えくれたし。
ホットミルクまで貰ってんのに、こういうのは失礼だろうけどさ。

『‥本当に、チャロのお爺さんなのか?』

『ほほっ、注意深い子じゃの』

お爺さんは立ち上がると、机の上の写真立てを俺に差し出した。
その写真には、お爺さんと‥‥

『おかあさんだ‥』

ルベおばちゃんが笑って映っていた。

『‥チャロと一緒じゃないということは‥、良くない結果になったという事かの』

お爺さんは写真立てを元の場所に戻すと、俯いた。
チャロの隣に、居るべき人がいない。
それでこのお爺さんは、事の事態を読んだ様だった。

『‥やから止めとけと言ったんじゃ』



エル・ディアブロと一緒になることなど‥。



『ぇ、』

お爺さんの独り言に、俺は思わず声を漏らしてしまった。
ヤバ、なんか訊いちゃいけないことに‥‥

『おかあさん、おとうさんがいちばんだっていってた』

『‥チャロ』

お爺さんを見上げる瞳は、とても強いものだった。
睨み付けるとまではいかない、真っ直ぐで真剣な瞳。

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