secret WISH
ドルガーの相手をしながら、俺はモルダを見た。
リビアンの矢が掠った肩が、微かに動いている。
黒い、螺旋が。
ぐるぐると。
「‥やっぱり、ドルガーだったのね」
さっきまでの叫び声とは逆に、静かな声がした。
泣きそうな、震えた声。
「っ、おい!リビアンッ!!」
その瞬間、
モルダの姿をしたドルガーが
ガラスの破片でリビアンの胸を刺した。
「‥モルダはもう、この世界にはいないのね」
モルダの姿をしたドルガーは、静かに頷いた。
「此処には、いない」
「なら、私も逝こうかしら‥。モルダが、いないと‥静かすぎるもの」
リビアンが呟くと、
此処にいる全てのドルガーがリビアンに襲いかかった。
「くそっ、リビアンッ!!」
武器を必死に振り回してドルガーたちを切るが
リビアンの姿を確認する事が出来ない。
ズバズバと切るけど、切っても切ってもキリが無くて。
全てを切り終えて見えたのは
リビアンではなく
モルダの姿をしたドルガーでもなく
地面、だけだった。
「‥‥嘘、だろ?」
「あ~あ、遅かったねぇ。食べられたんじゃない?」
キャハハハハと笑いを上げる女。
俺は酷い怒りを覚えて、女を睨みつけた。
「そ~んな顔されてもねぇ‥、仕方無いじゃん?」
無くなってしまったものは、戻らないよ。
「それは体も、記憶もね」
弧を書きながら消えていくドルガーの中、
俺は女に武器を向けた。
「無駄、君が死んで終わるのは分かってるんじゃない?」
「知るか」
「ふ~ん、そう。でも体力は取っておいた方がいいと思うなぁ。だって近々、お邪魔する予定じゃん」
「‥お邪魔?」
「そう。だから楽しみにしてて欲しいじゃん」
クラーヂマンが死ぬトコロ。
「君も、酷い死に方するんじゃない?」
そう言って消えていく女。
咄嗟に武器を投げつけるが、当たらなかった。
ガランッと虚しく地面に落ちる武器の音。
ガクンッと膝を落とす俺は、無力感に襲われた。
モルダが、いなくなって。
リビアンも、いなくなって。
「‥‥アメス」
お前は、いなくなったりしないよな?