前の席
春、12歳
あたしは12歳の春、A中学校に入学した。
小学校とメンバーは変わんないけど楽しみ。
これからどんなことがあるんだろう、
可愛い子になろう、
恋もしたいな、楽しいといいなぁ。
そんな風に青春の幕を開けた。
[1-2]
はじめは出席番号順だったけど、すぐ席替えをした。
あたしは一番うしろで、前に毅壱(きいち)がいる。
毅壱は座ったまま振り向いて話しかけてきた。
話も面白くて、あたしは少しずつすきになっていった。
それが恋と気づくには遅かったけど。
毅壱はサッカー少年で、クラブにも入っていた。
振り向いて、サッカークラブの話をいっぱい聞いた。
少しずつプライベートの話もした。
あたし、犬飼ってるんだ。おれも。ほんと?うん、でかい犬。
他愛ない話だけど、毅壱のことを知れた気がして嬉しかった。
「ねぇ、ちょっと手握って」
急な頼みにあたしは不思議な顔で毅壱の手を握った。
「・・・握力あるな」
はっとして、力を緩める。
これじゃ、可愛くないじゃん!
ていうか、手、手・・・!!
「あっ、えっと、犬にすごい引っ張られて鍛えられたっていうか・・・」
慌てて言い訳してみるけど、余計かっこわるくなった。
顔が真っ赤になるのが自分でもわかる。
毅壱の腕があたしの机の上にある。日焼けしていて、なんかきれいだった。
「腕、かっこいい」
声に出してしまった。
「おお、サンキュ」
「うん・・・」
話題を変えることはできたけど、内心バクバクしていた。
手、握っちゃったよ・・・しかも強く・・・。
なんだか熱っぽくなって、次の時間は保健室に行った。