-KAORI-

『あ、はい…。』


頭の中は、タツでいっぱいだった。

『はい、着いたよ。』

琴乃さんは、気を利かせてくれたのか、ドアを開けてくれた。

『ありがとうございます…、』

『うん、じゃあねっ!』

「さよなら。」


琴乃さんとタツが乗っている車を、角を曲がるまでずっと見た。


「風、ごめんね。」

『あたしのせいだよ…。』

そして風は、黙ったまま静かに涙を落とした。

「何かされた?」

そのあたしの言葉に、風は目を見開いた。

『いや…。』

「どうした?」

『嫌っ、こないでぇ…。』

「風?」

『もう、嫌だよぉ。こないでっ…。』


風は、耳を塞いだまま、泣き止むことはなかった。

それから、あたしが何度声をかけても、泣いたまま黙っていた。

壊れたように…。

「風?」

恐る恐る声をかけると、耳を塞いでいた手を離して涙を目に浮かせた。
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