-KAORI-
『分からない…。』
「え?」
『あたしが誰か、分からない…。あなたも、誰か分からない…。』
「風?」
『風…?』
「本当に、分からないの?」
『ごめん…。』
そう謝る風に、あたしは言葉を無くした。
「そっか。ならもう帰るね。」
『ばいばい…。』
風は、記憶喪失になった。
あたしの知ってる風は、もういなかったんだ。
「あたしのことも、分からない…?」
独り呟くと、今まで風と遊んだことを思い出した。
最初、あたしと健を不思議そうに見ていた風。
くだらないことでも、笑ってくれた。
『あかり!』
家まで、よろよろとたどり着くと、聞き慣れた声がした。
『電話にも出ねぇから、心配しただろ!』
「健…。」
健の顔を見ていると、次第に、涙腺が緩んできた。