-KAORI-
今、風のことを相談する勇気はこれっぽっちもなかった。

「あたし、もう帰ろうかな。」

『あかりっ…!』

気付けば健の胸の中。

『まじで無理すんなって。辛いときは、甘えろよ。俺だって、頼って欲しいよ。』

健の言葉は、ひとつひとつが胸に重く響いて、あたしの涙を誘う。

「健…、グズッ、本当は、風に笑ったり出来なかったぁ…。グズッ、辛かったけど、グズッ、風を辛い思いにするのは、嫌だったのぉ…。グズッ」

涙は、溢れるばかりで止まるよしもない。

『あかり…。俺でよければ…、俺でよければ、おまえを守りたい。ダメか?』

「えっ?」

『俺は、あかりが好きだ。こんなときに、また困らせるようなことするけどさ、もう押さえられないんだよ、自分が。』

「え、ちょっと待って。どういうこと?」

『だぁかぁらぁ、俺はあかりが好き。だから付き合わない?ってこと!』

照れくさそうに、頭をかく健が、急に愛おしく思えた。

「返事?」

『ずばっといいよ。もう分かってるから。』

「…いいよ。」

『えっ!?』

「付き合っていいよ。」

『まじでっ!もうあかり好きだ〜!』

健は、あたしを抱き締めた腕をきつくしめた。

「ちょ、健っ、苦しいっ!」

『あ、あぁ、ごめん。』

「今日、泊まってもいい?」

『おい、正気かよ。俺も男だぞ?』

「最っ低!」

『嘘嘘。』

「明日、朝帰ってお風呂入るよ。」


あたしは、襲われそうになって、風の記憶が消えた日に、健と結ばれた。
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