極 彩 グ レ - ス ケ - ル

「ごめんね、急に」
低い、けど優しい声。
その人はつかつかとこちらへ
歩み寄ってきた。
あたしは射られたように
動けないでいた。声が出ない。

「ピアノの音が、聞こえてさ。
来てみたら音楽室鍵かかってて」

そうだ、内側から鍵を掛けて
いたのに。

「どうやって、入ったんですか?」
やっとのことでそう言ったら、
その人は腰で履いていた制服
のズボンのポケットから元は
ヘアピンであっただろう金属片
を取り出して少し笑った。
なんて人だろう。

「撮っちゃって、ごめんね」
急に真面目な顔をして、その人
は謝った。あたしは、なんて
言えばいいかわからずに俯いた。
あたしは写真が嫌いだ。
だって、全てモノクロにしか
見えないあたしには意味のない
物だから。分厚い眼鏡をかけた
自分の容姿も嫌いだから、写真
はおろかプリクラでさえ自ら
撮ったことはない。
俯くあたしを見て、その人は
ピアノの横の椅子に腰掛けた。

「ねぇ、一曲ひいてよ」 
あたしは驚いてその人を見た。
その人は首にカメラを下げた
まま、にこにこと笑っていた。

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