極 彩 グ レ - ス ケ - ル
「怖くない」

ネオは、小さく呟いた。
ネオを、見る。

潮風になびく濡れた細い髪。
白い陶器のような肌。
精巧な人形のような横顔。
長い睫、透き通る瞳。
華奢な身体、長い指、
しなやかな四肢、甘い香り。

美しかった。

こんなにも美しい人が
こんなにも近くにいたんだと
泣きそうになるくらい。

海も、空も、砂も、風も、
すべてネオをひきたてる為に
あるようにさえ感じた。

それくらい、ネオは美しかった。

「怖くない。世界は多分、美しい」

素晴らしい造形の唇を開いて、
ネオがそんなことを言うものだから

あたしはそれを容易に信じた。

多分それを、美しいモデルや
芸能人が何百人集まって主張
しようともあたしは信じないだろう。

目の前にいる、この
不思議なひとが言うから、
きっとそれは真実として
あたしに刻み込まれたのだろう。


「美しい、」

呟いた言葉は、波音に呑まれ
消えていった。





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