極 彩 グ レ - ス ケ - ル
「色、聞いて頂戴」
母さんが、ゆっくりと話し出す。
「色には、沢山申し訳ない事をした。
色が物心ついたときにはもう父親
はいなかったし、私は仕事をして
いた。きっと、沢山寂しい想いを
させたわ。本当に、ごめんね?
目のことだって、色が私を責めて
当然なの。だって、私が色が望む
身体に色を生んであげられれば、
色は苦しまなくてよかったかも
しれない。そうでしょう?
でも、色を生まなければよかった
だとか思ったことは一度もない。
色のためなら、なんだってできた。
こんなに大切な、たった一人の娘。
たった一人の家族なんですもの」
ゆっくりと、あたしの手の甲を撫でる。
あたしは、込み上げてくる涙を
こらえきれずに泣いた。
「母さん」
「なに?」
「ありがとう」
母さんが笑って頭を撫でてくれる。
「まだ、子供ね」
母さんが注文してくれたティラミスは
ほの苦くて、でも甘くてとてもとても
美味しいと思った。
食後のコーヒーを飲み終わる。
母さんが時計をちらりと見た。
「もう時間なんでしょう?」
「ええ。少ししか一緒にいれなくて…」
「謝らないで。会えて嬉しかった」
「私もよ、色。身体に気をつけてね」
「うん、母さんも」
母さんがカードで会計を済ませる。
夏も終わり、過しやすい季節になっていた。