極 彩 グ レ - ス ケ - ル

でも、ネオが向かったのは
自転車じゃなかった。

「ネオ、これ…」

「俺、誕生日4月2日だから。
18になってすぐ免許とって
買ったんだ。学校には内緒」


黒くひかる、大きなバイク
だった。あたしでも知っている
海外の有名なバイクだ。

「はい。かぶってね」

黒いヘルメットを渡される。

「ネオ、あたしこんなもの
乗ったことないよ」

「安心して。普通に座ってれ
ばいいから」

「そんな」

「乗って。しっかりつかまって」

おそるおそるバイクの後部座席
にまたがった。前に座るネオが
なにかを手渡した。
イヤホンだ。ネオの胸ポケットには
Ipodが突っ込まれていて、
イヤホンの片方はネオの耳に
装着されていた。

イヤホンが短くて、
近づかないと届かない。
おそるおそるネオに近づくと、
ネオがあたしの手をとって
自分の腰に回させた。
密着してしまって、胸が大きく
なり続けていた。
ネオは、花のような海のような
甘くて爽やかな匂いがした。

イヤホンを耳に突っ込む。
爆音で東京事変の「透明人間」
の軽快な演奏が始まった。

ネオが小さくいくよと言った。
車体が大きく震え、
エンジン音を響かせながら
バイクは発進した。景色が
動き出した。

「透明人間」のギター音と
低いエンジン音と
ごうごうと鳴る風の音。
自分の鼓動とネオの鼓動
それからネオの鼻歌。

どれもがいっぺんに聞こえて、
でもどれもが心地よかった。

あたしは恐怖から、ネオの
制服のシャツを汗ばむ程に
強く握っていた。
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