極 彩 グ レ - ス ケ - ル
四階の端にある音楽室は
しんと静まっていた。
音楽の教師に借りた合鍵で
引き戸を解錠して室内に入り、
内側から鍵をかける。

まっすぐにグランドピアノへ向う。
かけられていたクロスを外す。
艶やかな流線形のボディに触れる。

ピアノは好きだ。
ボディも、鍵盤も、五線譜も
白と黒で、きれいだから。

レの音を人差し指で鳴らすと、
澄んだ音が響いた。

別珍ばりの椅子に腰掛けて
鍵盤と対峙すると、自然と
背筋が伸びる。

まずは、さっきから頭の中で
リピートしている曲、
Let it beを、スローテンポで。
好きな曲は大体頭に楽譜が
入っている。

あたしの目はいつか
完全に光を失う。
五線譜が見えなくなる
その前に、好きな曲くらい
頭に叩き込んでおきたかった。

Let it beが終わり、
そのままG線上のアリアへ。
目を閉じて、完全に
音とふたりだけになる。

最も、心地いい瞬間。
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