極 彩 グ レ - ス ケ - ル
「安全運転でお願い」

「理解しました」

ネオは笑いながらそう言うと、
この間と同じようにイヤホンを
片方差し出した。

耳につっこむ。
のんびりとしたメロディ。
椎名林檎さんの「モルヒネ」だった。

曲の口笛にあわせてネオも口笛
を吹く。車体にエンジンがかかる。

ゆっくりと、帰路をたどる黒いバイク。


ネオのシャツはやっぱり、
甘い、海に似た花の匂いがした。


風音はうるさくて、ネオの口笛
は途切れながらしか聞こえなかった。

目を閉じる。
林檎さんの声と、楽器。

カラオケにすら行ったことのない
あたしは、人前で歌ったことはない。

でも、今はネオとあたししか、
ここにはいない。
ネオだってどうせ風音でほとんど
聞こえていないだろう。

目を閉じて口ずさむ。
大好きな歌を、歌う。

びっくりするくらい、
心地よかった。
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