極 彩 グ レ - ス ケ - ル



バイクがゆっくりと速度を落し
うちの近くの公園の前にとまった。

「ここで、いいの?」

「うん、ありがとう」

「色」

「なぁに?」

「色って歌うまいんだね」

くつくつと笑いながらネオが言った。
一気に顔が紅潮するのがわかった。

「きっ、聞こえて…」

「聞こえてるよ。上手かった」

「う…」

「じゃあ、明日ね」

「う、うん」

大きな音を響かせて、
ネオのバイクは走っていった。

その背中を見送る。

角を曲がって、ネオが見えなく
なった。息をついて、公園の中
を歩く。公園をつっきると、
うちだ。築3年の、中流マンション。

ポストをチェックすると、ダイレクト
メールがいくつか入っていた。
それを除くと、薄っぺらい白い封筒
が現れた。一瞬動揺して、手に取る。

そのままオートロックを開錠して、
エレベーターを呼ぶ。

手紙の差出人は、見らずとも
わかっていた。エレベーターの中で
封筒を裏返すと、水野香月の文字。

母だ。

誰もいない家の鍵をあけ、
リビングに向かう。

静かな家のなかで、
封筒を破く音だけが響いていた。
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