極 彩 グ レ - ス ケ - ル

ずぶ濡れの眩しい世界

いつもより早く、アラームが鳴る。

ベッドにまた潜りこみたい気持ちを
おさえて起き上がり眼鏡をかける。

カーテンの隙間から朝日が差し込む。

寝巻きのまま台所へ向かい、
エプロンをつけた。

自分の弁当箱を取り出して、
はたと気づいた。

ネオのお弁当箱どうしよう。

戸棚をさぐると、使い捨ての
ランチボックスがあって安心した。

はじめて他人のぶんのお弁当を
作りながら、迷うことばかりだった。

おにぎりの具は?
卵焼きの味は?
何が食べられないんだっけ?
ほうれん草は食べられるの?
味、濃すぎないかな

何度も手をとめ、味見をした。

丁寧にランチボックスにつめる。

どうにか、できあがった。

黒い麻織りの布に包む。

急いで制服に着替えて鞄を
持った。弁当の袋も、忘れずに持つ。

いつもどおり、家を出て
通学路を歩く。遅刻気味だ。

日差しがまぶしくて、目を細めた。

背後から急に自転車のベルの音が
した。慌てて道の脇によけた。

「おはよー、色」

自転車に乗ったかえだった。

「お、おはよ」

「かえの友達ー?」

かえの後ろから声がする。

黒い髪を、ワックスで
ツンツンに立てた少年だった。

小さめで、やさしい目が笑って
いた。犬を思わせる少年。

「あ、トシ。これが色」

「あ、色ちゃんかぁ!」



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