極 彩 グ レ - ス ケ - ル
教室に入るとほぼ同時に、
本鈴が鳴った。
「なんや、折角急いだのに」
気の抜けた声をあげるめぐみの
視線をたどると、黒板の文字が
目に入った。
次の授業の担当が、少し遅れて
くるということだった。
「でも間に合ってよかったぁ」
「うん。遅刻よりましじゃん」
「そうだね」
そんな会話をしていれば、注がれる
好奇の視線も気にならなかった。
席につき、教科書を用意していると
机に影が落ちた。
顔をあげると、藤崎さんがいた。
なにか言う前に藤崎さんが口を開く。
鳥肌の立ちそうな猫撫で声。
演じきった申し訳なさげな表情。
「さっきはごめんねぇ水野さん?
思いやりで言ったんだけど、
なんか、傷つけちゃったみたいでぇ」
立ち上がりそうなめぐみと、
心配そうな詩織とかえに目で合図した。
" 大丈夫 "
口を、開く。
「あたしこそ、授業放棄なんかして気を
使わせちゃってごめんなさい」
「気にしてないならよかったぁ
それでね、ネオが水野さんを
あたしが傷つけちゃったからか
なんか怒っちゃったんだー?
よかったら後で謝りに行くから
水野さんも協力してくんない?
ネオってほんと部員思いだよねぇ」
にこにこと笑っている。
ただこれだけが目的だったんだろう。
「かまわない、けど」
「ありがとー♪じゃぁ後で♪」
「藤崎さん」
踵を返した藤崎さんを呼び止める。
怪訝な表情で振り向く彼女。
「なに?」
「あたしは、全色盲だし不自由なこと
は多いけど、自分のことかわいそう
だと思ったことはないから。それだけ」