極 彩 グ レ - ス ケ - ル
雨は、きらいだった。
暗くなり、しめっぽくなって
いつもあたしを不安にさせる。
でも、この
走りながら雨に打たれるかんじ、
「悪くねぇな」
ネオが小さく呟いた。
あたしは頷いて、ネオがくつくつ
笑い始めた。なぜかあたしも可笑しく
なって、笑った。
顔を、腕を、背中を、
夕立ちが容赦なく打つ。
あたしのセーラーも、ネオのTシャツも
水分を吸って重くなる。
いつも右に曲がる大きな交差点で
ネオは左に曲がる車線に入った。
「なんでこっちに行くのー?」
大きな声でいうと、
ネオが大きな声で答えた。
「雨が降ってるなら、降ってないとこ
に行けばいいじゃなーい!」
愉しそうに、半ばやけくそぎみに。
「いいじゃなーい!」
あたしも、言った。
夕立ちの威力は収まらずに
あたしたちを打っていたけど、
バイクはスピードを落とさない。
嫌いじゃない、この感じ。
あたしは、耳に流れこむ音楽
を、聴いて、うたった。
ネオが、たのしそうにからだを
揺らす。豪雨に打たれながら、
愉快そうなあたしたちははたから
見ると異様だったかもしれない。
となりを走る車から、
もの珍しそうな視線を投げつけられても
なにも気にならなかった。
湿った空気のなかに、懐かしさを
感じさせるような潮の匂いが混じり始めた。
そうだ、こっちは海だ。
雨は威力を落としはじめた。
短いトンネルをぬけると、
久し振りに見る景色。
水平線。
さっきまで大雨だった海がわは、
すでに雨雲が通り過ぎて、
さっきまでの街の様子が嘘のように
晴れわたっていた。
太陽が、射している。
まるで、夏。
「きーもちいいー!」
スピードを増しながらネオが叫んだから、
あたしも真似をした。
本当に、気持がよかった。