猫とうさぎとアリスと女王
 それから父さんと母さんで彼の話をしているのを何度か聞いた。
引き抜くとか、いきなりデザイナー兼ショップ店員として働かせるだとか、でもそれじゃ他の社員が納得いかないだとか。

結局彼はその後、直営店のショップ店員として雇われることとなった。

それもきちんと採用試験を受けての結果だったらしく、これなら恨みも買われないと父も母も安心していた。


けれど日比谷という男は時折僕の家に来たり、一緒に食事をしたりするようになった。

結局媚を売って出世したいだけなんじゃないか。
僕はそういう彼のやり口が好きでは無かった。


「飛絽彦も年が近いから話しやすいでしょ?」

とか言われたけれど、そんなことは全く無い。
僕は彼と話なんか合わないだろうし、別に話したいとも思わない。

しかし彼の方は僕に積極的に話しかけて来て、それが迷惑だった。
その度に僕は作り笑いを浮かべて愛想を良くして答えた。

正直、面倒だった。



 そんなある日、僕は母さんの新しいコレクションの発表をするパーティーに行くことになってしまった。

昔はよく顔を出していたけれど、ここのところはずっと嫌がって出なかった。
けれど今回のパーティーは大事な物らしく、いくら愚図っても母は頑として聞き入れなかった。

それで仕方なくパーティー用の服を買うハメになってしまった。


「お母さんは忙しくて行けないから、ここのお店に行って日比谷君に見立ててもらいなさい。」


母さんはそう言って一枚のメモを渡した。


最悪。
だったら母さんに選んでもらった方がまだマシだった。


僕は仕方なく母さんの言うとおり、彼のいる店に行くことにした。
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