猫とうさぎとアリスと女王

 飛絽彦へ


まず最初に謝らなくちゃいけないと思う。
 
突然、いなくなったりしてごめん。飛絽彦のことだから今頃泣いてるかな。
 
こうしてお前の前から姿を消したのにはちゃんと理由があるから。
お前は納得しないと思うけど、俺にはすごく重大なことなんだ。

この間、眞由美さんに大事な話をされた。
海外に支店を出すんだけれど、その店のことを俺に任せたいって。
店のコーディネートからディスプレイ、全部やってみないかって言ってくれたんだ。
勿論、眞由美さんと相談しながらだけど「好きなようにやっていい」って。

そのことを一番にお前に言わなくちゃいけなかったんだけど、言えなかった。

お前に会う度に胸が痛んだ。
笑顔で「大好き」って言ってくれるたびに、言い出せなくなった。

言い訳にしか聞こえないと思うけど、これは俺なりに悩んで出した答えだ。

何年向こうで働かなくちゃいけないか、明確にはわからないんだ。
一年かもしれない。もしかしたらそれ以下かも。
でも十年働く可能性だってあるんだ。

それにお前を巻き込む訳にはいかなかった。

飛絽彦には学校もあるし、夢も、将来もある。

俺にそれを潰す権利なんて無いから、黙って行くことにした。


だからもう、俺のことは忘れて欲しい。




さようなら。



今までずっと有難う。



愛してるよ。





              岳志
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