猫とうさぎとアリスと女王
 「なんか飲むか?」

「いえ、結構です。病人なのですから、気遣いは無用ですわ。」

「よかった。冷蔵庫からっぽなんだ。」


だったら聞かなくてもよろしいでしょう?
サボはいつものようにニヤニヤ笑いをしました。

もう・・・サボにつきあっているとかなりの疲労を伴います。


「シーナ、心配してたぞ。」

「・・・そうですか。」


おそらくシーナがサボにメールか電話でこの間のことを言ったのでしょう。

ならば私に面と向かって言いに来ればいいものを。
私は顔をしかめました。


「岳志、結婚すんだってな。」

「そうらしいですね。」

「ガキもいるんだってな。」

「らしいですね。」

「幸せ、なんだろうな。」


幸せ・・・?

シーナを置き去りにして、思いを踏みにじって得た物が幸せ?
本当にそうなのでしょうか。

だとしたら私はシーナのかつての恋人を軽蔑します。

そんな風にして得た幸せなど、本当の幸せではありません。


「けれど、酷くありませんこと?
結局、その方はシーナを捨てたのでしょう?あんまりですわ・・・。」


するとサボはやかんを火にかけました。

狭くて汚いキッチン。
キッチンと呼べるほどの大層なものではありません。


「岳志はシーナを捨てたんじゃねえ。別れようとしただけだ。
けどシーナはそれを拒んだ。別れずに信じて待つって言ったんだ。

俺は何度も止めたよ。

何年も待ってもし岳志が来なかったら、一番ショックを受けるのはお前だって。
探したほうがいい、会いに行った方がいいって。
でもシーナは待つことを選んだんだ。岳志が全部悪いわけじゃ無い。」


私はサボの言ったことを受け入れることは出来ませんでした。

悪いのは全てタケシさんのせいではないですか。
私にはそう思えました。


好きならば離れ離れになるのはおかしいです。


愛しているならば、もっと違う方法が取れた筈。

私にはそう思えて仕方がありませんでした。
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