猫とうさぎとアリスと女王
 シーナに早急に準備をするように急かし、車へと押し込みました。
岳志さんの家は少々遠く、思ったよりも時間がかかることが予想されます。

シーナはそんなことは望んでいないかもしれません。

けれどお節介な私には黙って見ている訳にはいかなかったのです。
嫌われてもいい。罵られてもいい。

このままではいけないと思ったのですから。


「マコ、どういうつもり?」


車内でシーナは私に問いかけました。


「怒ってらっしゃいますか?」

「怒ってる訳じゃないけど・・・。」


確かにシーナの顔は怒っているというよりは困惑していると言った方が正しいでしょう。


「タケの所なんて行ってどうするつもり?殴り込みに行くの?」

「シーナはどうするつもりだったのですか?」


するとシーナは急に黙り込みました。


「あのまま式の当日まで部屋に籠もり、笑顔で岳志さんを祝福するつもりだったのですか?まさかそんな訳はありませんわよね。

黙っていてもどうにもなりませんわ。消化不良のままなんて嫌ではありませんこと?
岳志さんの所へ行って、言いたいことを言ったらいいと思います。

無理にとは言いませんわ。
シーナが会いたくなければ今から引き返しますけれど。」


シーナは黙ったまま窓の外を見ました。


「いいよ、行く。」


私の思ったとおり。

ここまで言って引き下がる人間などあまりいないでしょう。
それで引き下がるような人間は、相当の臆病者です。


私が挑発的な言葉を言ったせいもあり、シーナはそれ以降一切口を開きませんでした。

ずっと窓の外の移ろい行く景色を見ているだけ。


そのせいでシーナがどんな表情をし、何を思っているかは読み取れませんでした。
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