猫とうさぎとアリスと女王
 段々と日が傾いてきます。
なんて静かなのでしょう。こんな場所があったなんて驚きです。


「出会った頃の岳志はね、すごくぴりぴりしてた。
いつも真剣で怒ったような顔しててね、なんであんなに肩に力入れてるんだろうって思ってた。

たぶん、彼との思いを断ち切ろうと必死だったのね。携帯電話も海外製のものを持ってたし。

話し終わって、岳志は“それでもいいなら結婚してくれないか?”ってプロポーズしてくれた。指輪置いてね。
“今はお前をちゃんと守って、いい家庭をつくりたいってことだけを思ってるから”って。

勿論、頷いたわ。

岳志って完璧なの。仕事も出来て、ミスもカバーできるし、上司にも部下にも慕われてて。
だけど人間的な部分もあったんだって思って。
さらに好きになっちゃった。」


智鶴さんはそう言って照れ臭そうに笑いました。
私にはそれがとても可愛く見え、一緒に笑ってしまいました。

すると私の携帯電話が音を立てました。


「もしもし?」

「話し終った。マンションの前にいるから。」


シーナはそれだけ伝えると、ぷつりと通話を終了させてしまいました。


「智鶴さん、私ちょっと急ぎます。何かあったのかもしれませんし。」

「あ、ちょっと待って。携帯電話貸してくれる?」


私がそれを渡すと、智鶴さんは電話帳の機能を起動させます。
そして何かを打ち込んでいます。


「これ、私の携帯の番号。それから今月から代官山に新しくオープンしたShina La Soleilで販売スタッフとして働いてるからよかったら来てね。」

「有難う御座います。必ず行きますわ。」


そう言って智鶴さんは手を振ってくれました。



私はそれに軽い会釈で返事をし、早足でシーナのもとへと向かいます。



夕陽がとても眩しく、赤々と燃えていました。

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