猫とうさぎとアリスと女王
 奏芽のご子息であるサボは俗に言う“顔パス”で院長室までたどり着きます。
寧ろ病院内の方々がサボに頭を下げるほどです。

私は驚きながらもサボの後ろを歩きました。

この病院にロリヰタファッションの女の子と、顔中にピアスがついた男の子とではかなり浮いてしまいます。
サボはそんなことは無いと思いますが、私は肩身が狭くてなりません。


そんなことを思っていると、サボが立ち止まりました。

その部屋には“病院長室”のプレートがあります。


サボは深い深呼吸をしてドアをノックしました。


「どうぞ。」


ドアの向こうから声がしました。

サボは無言でドアを開け、院長室へと足を踏み入れます。
私も後に続いて入室しました。


「失礼致します。」


自然と小声になってしまいます。

私、本当にこんな所にいてよろしいのかしら?


部屋の中の革張りの椅子に、サボのお父様は座っていました。

その姿は実年齢よりも若く見えます。
私が想像していたサボのお父様は、もっと厳格そうで髭を蓄えたような方だと思っていました。

しかしそんな想像とは逆にサボのお父様は爽やかで、知性と教養が溢れたような空気を醸し出しています。


「清・・・。」


サボのお父様は眼鏡をずらし、サボの顔を見ました。


「親父、久しぶり。」


感動の親子の再会とは言いがたい空気。


サボがその中で何を考えているのか、私には到底想像もできませんでした。
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