猫とうさぎとアリスと女王
 サボは鋭い眼差しでお父様を見て、そのまま床に膝をつきました。
床に座ったサボは強い意志を持った瞳で佐兵衛さんを見ます。


「あんたにどんだけのことをしたかわかってる。
それを踏まえての頼みだ。」


するとサボは頭を下げました。

それを見て私は絶句しました。
あのプライドの塊のようなサボが、今こうやって土下座をしているのです。


「俺に、医学を教えて下さい。医者になりたいんです。」


佐兵衛さんは何も言わずにサボを見下ろしていました。


「医者になる為ならなんでもします!
綺麗ごとだとしても、俺は人が死ぬのを見たくは無いから!
どんな腐った人間でも!どんな悪い人間でも!

難病でも治せるような医者になりたいんです!!!

だから!だから俺に、医学を教えて下さい!!!」


サボは涙ながらに声を上げていました。
あのサボが、頭を下げて医者になりたいと言っているのです。

いつも飄々として、格好いいことしか言わないサボ。

そのサボが泣きながら懇願しているのです。



医者になりたい、と。




すると佐兵衛さんが立ち上がり、サボの傍に来ます。
そうして胸ぐらを掴んで顔を上げさせ、思い切りサボの頬を殴りました。

私もサボも目を点にしました。

私は佐兵衛さんがサボの涙を踏みにじったと思い、口を挟もうとしました。


しかし、それは間違いでした。


佐兵衛さんはその後サボをきつく抱きしめ、こう言ったのです。



「なんで、もっと早く言わなかったんだ!!!

この、馬鹿息子・・・!」



私の瞳から大粒の涙がこぼれました。
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