猫とうさぎとアリスと女王
 サボのお父様の目から光の粒が落ちたのを、私は見逃しませんでした。


「清、悪かった・・・。ずっと謝らなければいけないと思っていたんだ。

母さんは最後まで私に“医者であってほしい”と言っていた。
だからあの日も、医者の判断として急患に対応していたんだ。

けれどあれが間違っていたのかと。

医者としての判断は違っていなくとも、父親としての判断は間違っていたのではないかとずっと思っていたんだ・・・。
だからお前に謝ろうと・・・。」


佐兵衛さんの悲痛な声。

私は胸が痛くてなりませんでした。
こんな思いを、サボもお父様もずっとしていたのでしょう。


「いや、あんたは間違ってなんかいねえよ。
医者としても、親としても。

だから謝罪の言葉なんていらねえ。謝るのは俺のほうだ。」


サボは照れ臭そうに少し俯いて言いました。




 その言葉を聞いて、私は院長室の外へと出ました。

親子同士、積もる話もあるでしょうからね。
私の気遣いです。


なんだか心が温かくなったように思えます。


私は今日、証人になりました。



サボが医者になると宣言したことと、親子の溝が解消されたことを見届けたのですから。



それを証明できる第三者は、私なのです。


それを思うとなんだか自然と笑みがこぼれました。
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