猫とうさぎとアリスと女王
 空は快晴。

延々と広がる真っ青な色は、まるでサボの心を映しているようでした。


「親父がさ、まずは医大に入れって。」


サボは私の前を歩きながらそう言いました。

風が強く、私の髪が靡きます。
サボはポケットに手を突っ込んだまま背中を丸めて歩いていました。


「医大に入って卒業しろって。そこからがスタートだとさ。」


そう言って空を仰ぐサボは、どことなく嬉しそうな表情をしていました。


「俺、ダサかったな。めちゃくちゃ格好悪かったし。」


サボは苦笑しながら言いました。


「ダサかったですね。」


私は笑ってサボに言います。


「でも、格好悪くはありませんでしたよ。」


サボは柔らかく笑いました。


「病院で寝てるとき、母さんが夢に出てきたんだ。
何も言わずに俺のこと見てた。
それで一言だけ俺に言うんだよ。なんて言ったと思う?」


サボは私をちらと見ます。


「“清は大きくなったら立派なお医者さんになれるわね。お母さん安心した。”
って言うんだよ。
いつかと同じこと言いやがる。

その後シーナに殴られて目え覚めた。
母さんが望んでたことも、俺が望んでたこともこんなんじゃ無えって。

こんな自分、誰も望んじゃいねえってよ。」


サボはそう言って道端の石ころを蹴飛ばしました。


「俺、シーナに殴られたのなんて初めてだぜ。
あいつも人殴ったのなんて初めてじゃねえ?

笑えるよなあ。
俺がシーナに怒鳴られて、その上殴られるんだぜ。」


けたけたと笑うサボは、何かに解放されて喜んでいるようでした。


「俺、今からシーナんとこ行くわ。それで詫び入れてくる。」


乾いた風が通り過ぎました。
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