猫とうさぎとアリスと女王
 けれど正直な所、今私がパリへ行ったとてどうにかなる訳ではありません。

シーナとパリへ行って何ができましょう。
フランス語も喋れないというのに。
自分のやりたいことすら見つかっていないと言うのに。

それ以前にお父様の許しが出る筈がありません。


結局、そんな願いは夢のまた夢。

私自身、そんなことを望んではいないのです。
シーナと一緒にいたいとは願っていますが、何もできないのは嫌ですから・・・。


「あ、そうだ。」


シーナは視線を私に向けました。

そして徐に立ち上がります。


「マコに渡そうと思ってた物があって。」


そう言うとシーナはカンバスの近くへと行きました。

カンバスの近くには資料として使っているような本や描きかけの絵、絵画道具、汚れたタオルなどたくさんの道具が散らばっています。
シーナはそれらをかき回すようにしていました。

何か探しているようです。


「あったあった。」


シーナが笑顔で持ってきたのは小さなスケッチブック。
表紙は所々に絵の具がついており、汚れています。


「はい、あげる。」


私にスケッチブックを手渡し、シーナは背を向けました。


恐るおそるスケッチブックを開きます。


「貰っても嬉しくないかもしれないけどさ。
一応、プレゼント。」


シーナの声が小さく響きました。
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