猫とうさぎとアリスと女王
 飛行機の轟音。
強い風。
真っ青な空を渡る鳥。


あの巨大な物体にシーナが乗っていて、フランスまで行ってしまうのだなあとぼんやりとした頭で考えていました。


生まれて初めてのキスは、何が起こったのかわからないうちに終わっていました。

味は甘酸っぱいレモンでも無ければ、甘ったるいキャンディでも無く。
唇が触れた瞬間など記憶にありませんでした。


ただ覚えているのは、温かかったこととシーナの匂いがしたこと。


それだけでも良いかしらと思えます。
大好きな人と初めての口付けを交わせただけで満足ですから。




 大きな無機質な鳥を見送り、私はボンネットをつけ直しました。

あまりにも風が強くて体ごと飛んで行ってしまいそう。
今の私は涙も流さず、笑顔でシーナの乗った飛行機を見上げています。


きっと、人生で一番清々しい顔をしているのではないでしょうか。




シーナは私からたくさんの物をもらったと言いましたが、それは私も同じ。

イオから、サボから、シーナから、数え切れないほどのものを貰って、私は今ここに立っているのです。
目には見えないけれど、私の手の中にはたくさんのものがあるのです。



私は左薬指に光る薔薇の指輪を見ました。




私たちは、こうやって大きくなっていくのですね。


たくさんの人に出会い、たくさんのものをもらい、成長していくのでしょうね。




成長過程の私たちの進む道は明るいのでしょうか。

それとも暗闇?



そんなことはわかりません。



考えるだけ無駄というもの。






だって、ほら。




私たちの未来は、始まったばかり。












私は空を見上げ、そして前を見据え、胸を張って歩みを進めました。











光の差す、未来へと向かって。
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