猫とうさぎとアリスと女王
 「あっちには混ざらないのかい?」


老人は顎で広場の絵描きたちが集まっている場所を指した。


「僕はまだ腕も未熟ですし、それに日本人だから。
あそこに入るのはちょっと肩身が狭いので。」


「君は学生かい?」


僕は頷く。


「お願いがあるんだが・・・。私を描いてはくれないかい?」


「えっ!?」


「そういう商売はしていないのかな?」


僕は困ってしまった。

基本的に人物画は苦手だし、それに似顔絵なんて描いたことが無い。


「お爺さん、僕・・・人物画は苦手で・・・。」


「構わんよ。君の画風が気に入ったんだ。君の柔らかい、優しい絵が。」


その言葉を聞いて、僕は渋々筆を取った。


「クロッキーでいいですか?」


老人はゆっくりと頷く。

僕は手を動かし始めた。
できるだけ集中して、お爺さんの空気が絵から滲み出るようにした。


優しそうで、でもどこか哀愁があって寂しそうで。
僕みたいな日本人に声をかけてくれる。
そういうおおらかさも持ち合わせた人なんだろう。


僕は夢中で描いた。


僕の出せる最大限の力で。
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