猫とうさぎとアリスと女王
 「シーナ、心配してたぜ。」


サボはポケットの煙草を取り出し、火をつけようとしました。

私は即座にそれを止めます。


「ここでは吸わないで下さいね。私、髪や洋服に匂いがつくのが大嫌いなので。」


サボは舌打をするとライターと煙草をしまいました。


「心配してたって・・・どういうことですか?」

「マコのこと傷つけたんじゃないかって。嫌われたのかなって。」


傷つけてしまったのは、寧ろ私の方なのに・・・。

私のことなど、嫌いになってしまっても当然なのに・・・。


「もう一度ちゃんと話したいって言ってたぜ。」


ちゃんと話す・・・。けれど今さら一体何を話すというのでしょうか?

私がシーナのことを好きだと、もう一度言えばいいのでしょうか。
そんなの・・・苦痛でしかありません。


もう答えは出ているのですから・・・。
負け戦に挑むようなものです。


「シーナはさ、前の男が忘れられないんだよ。かなり惚れこんでたから。
けどあいつ、一応忘れようと努力はしてるんだぜ?
その努力は汲んでやってくれよ。」


「シーナの前の恋人は、どんな人だったのですか?」


私の質問にサボは少し悩んでいるようでした。

言うべきか、それとも言わないべきか。
しかしサボは口を開きました。

おそらく、私を思っての行動でしょう。


「普通の男だよ。年上だったけどな。
顔はまあ良くて、頼りがいがあって、いい兄貴ってかんじだったな。
だから俺も懐いてたんだけど。

シーナともめちゃくちゃ仲良くて、海外行って結婚すんじゃねえかとか思ってた。
けどそいつ、突然どっか行っちまったんだよ。」


「えっ?だって仲はよろしかったんでしょう?」


「ああ、そうなんだけどさ。俺もそこんとこはよく知らねえ。
シーナが言うには仕事の都合とか言ってたけどな。
結局行方もわからず、連絡もつかなかった。

でもシーナは、何もしなかった。
あいつを探す方法なんていくらでもあったのに、シーナはずっとあいつを待ってた。」


「けれど迎えに来るのはおろか、連絡さえも来なかった?」


「そういうこと。」
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