猫とうさぎとアリスと女王
 イオの言う人の話は、前に何度か聞いたことがありました。



名を懸高奨造といい、茶道界では有名な家元を務めている人間です。

イオは幼い頃から懸高氏に見初められ、そして大層気に入られていました。
家に来るたびに可愛がられ、いつも懸高氏は優しかったそうです。


けれどその優しさと愛情が別の物だと気付いたのは、イオが中等部に上がる少し前の事。


最初は可愛がってくれているだけだと思っていたイオは異変を感じました。


これは違うと。
何か別の感情が、懸高氏にはあるのではないかと。


そう感じたのは懸高氏が執拗に体に触れてくることをイオが感じ取ったからでした。

体に変化が現れる前までは、懸高氏が体に触れるのは頭を撫でる程度。


しかし体が成長するに従い、撫でるのは頭だけでなく・・・。



イオは何度もその耐え難い仕打ちを誰かに話そうとしました。
けれどそれができないことを懸高氏は知っていたのです。

もしイオがそんなことを言っても、信じてもらえないのが第一。


そしてもし言えば、イオのご両親の肩身が狭くなってしまうのです。



茶道界で派閥が起こるのは御法度。

もし懸高氏とイオの家の間で派閥が起これば、両親を困らせてしまうとイオは考えたのです。



前は口も心も閉ざし耐え続けていたイオも、私と友好関係を結んだ時から懸高氏が訪問する時には私の家に逃げ込んできました。



けれど懸高氏もそう馬鹿では無いということです。

事前に連絡をせずに訪問するという手段を取ったのでしょう。




 車の中、私はしきりに苛々していました。


イオ・・・どうか無事でいて・・・。
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