猫とうさぎとアリスと女王
 全てを話し終えれば、三人は表情を曇らせていました。

まず最初に口を開いたのはトラ。


「姐さん。それ、本当ですか?」


確かめるように尋ねるトラに、私は頷いて返事をしました。


「マジかよ・・・。ぶっ殺そうぜ、そいつ。」


憎しみと怒りを込めて言うのはサボ。
相変わらず言葉が荒々しいです。


「そんなこと、出来る訳が無いでしょう・・・。」


私が落胆したように言うと、シーナが付け加えるように言います。


「“懸高奨造”って言ったら僕でも知ってる茶道家だよ。
イオの家の流派も有名だけど、懸高はそれ以上の家柄じゃなかったかな?

そんな人に嫌がらせをさせられても文句を言えないのは当たり前さ。
イオのことなら尚更。

きっとそんなこと言ったらご両親の肩身が狭くなるし、言ったとしても権力とお金で揉み消されそうだしね。」


シーナは的確なことを言い当てました。
きっとイオが耐えているのは、そのことが胸の痞えになっているからです。


「お嬢さんは、なんで誰にも言わずにいたんですか?
俺でも姐さんにでも言ってくれれば何とかできたかもしれないじゃないですか。」


トラは語気を強めて言いました。

意中の人間が苦しんでいることに気付き、トラには私たちとは別の感情が生まれているのでしょう。
悲しそうで、けれど憎しみのこもった顔つきをしています。


「イオは私たちにも迷惑をかけたくなかったのだと思います。
私も何回もどうにかしようと思いましたが、結局はイオの家に何かしらの迷惑がかかるのです。

けれど今日の電話で、イオは初めて私に助けを求めたのです。
悲しそうな声で“助けて”と。

もう、私は黙って見てはいられません。
どうにかしてイオを助けたいのです。」



気付けば、私の目からは涙が流れていました。

私がずっと俯いていると、誰かの手が私の頭に優しく置かれました。
その体温と感覚でその手がシーナのものであることに気付きます。


「サボ、どうにかしよう。黙って見てられる問題じゃない。」


シーナの言葉は優しく、そして強くもありました。
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