猫とうさぎとアリスと女王
　「前に会った時のこと、覚えてますか？」


私は頷いた。
あの時のことはよく覚えていたから。


「私の他に、何人かいたでしょう？
あの人達は皆、一日一日を必死で生きています。食べ物もお金も無い中で。
だからあの時もあんなことをしようとしたんです。

そのことは私から貴方に謝っておきます。
けれどね、あの子達はああいう方法でしか生きられないのです。

私たちのようなお金持ちにはわからない話。

正直あのような生き方には共感できませんし、格好悪いとさえ思います。
必死に生きるなんてすごく格好悪いと思いません？」


私は何も言えなかった。
必死なのは一緒な気がしたから。


「彼らは何故生きていると思います？
都会の掃き溜めのような場所で、あんな風にしか生きられないのに。
いっそ貴方のように死んだ方が楽なのに。」


この子、ずっと微笑みながら話してる・・・。

なんで笑ってこんな話ができるんだろう。
けれどその顔は亡くなった曾お爺様にすごく似ている気がした。


「彼らには泣いてくれる人がいるからです。
一緒に笑って、怒って、泣いてくれる人がいるから。
だから必死になって生きているんです。

だってもしもそこで死を選んだら、誰かが泣いてしまうから。
悲しんでしまうから。

だから彼らは死ぬわけにはいかない。
そんな格好悪い生き方も、悪くはないと思いません？」


その言葉が妙に胸に響いた。


「私にも、そんな人はいるのかしら。」


一筋の涙が私の頬を伝った。


「何があって、何で死のうとしたのかは知りませんけれど、貴方が死んだら悲しむ人はたくさんいると思いますよ。
ご両親は勿論、周りの人々みんな。

貴方が死んだら、少なくとも私は悲しいですけれどね。」




その瞬間、溢れんばかりの涙が地面に落ちていった。

そこに泣き崩れて風の音を聞いた。




私はまだ、死んじゃいけない。



誰かがそう言った気がした。
< 84 / 281 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop