猫とうさぎとアリスと女王
 「もう、あんな無謀なことはやめて下さいね。お嬢さん一人の体じゃ無いんですから。」


トラさんは初めて会った時から私のことを“お嬢さん”と呼ぶ。
それがなんだか心地よくて、私はそれを放置してきた。


「心配してくれたの?」


私が何気なくそう聞けば、トラさんは顔を真っ赤にして俯く。
同い年なのに中学生みたいな反応するのね・・・。


「そりゃ、心配しましたよ。誰だって心配しますよ!」


私はかすんだ記憶の中で覚えていることがあった。

泣き叫ぶマコと、冷静な顔をして力強い目で見るサボ。
背中をさすり、喉に指を突っ込むシーナ。

そして、ずっと手を握って“しっかり”と言い聞かせてくれたトラさん。


「ありがとう。」


全てのことに感謝を込めて、私はそう微笑んで言った。

すると私の目の前に手が翳される。
訳が分からないままでいると、指の隙間からトラさんの顔が見えた。


「お嬢さん、そういう顔やめてくださいよ。反則だっつうの・・・。」


後半は半ば独り言のように言う。
男の子のくせに、私よりも何倍も可愛くて純粋。

きっとマコに似たのね。

私は翳された手を両手で握り締めた。


「だから・・・お嬢さん分かってますか?俺の言いたいこと。
っつうか、全部分かってるんでしょ?」

「何が?」

「俺の・・・その、気持ちとか?」


なんで最後が疑問系?
私に聞かれてもわからないわよ。


相変わらずトラさんの顔は真っ赤で、何が言いたいのかなんてさっぱりわからない。
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